HOME > 創業者 和田光正について
ご挨拶
天職という言葉があります。
天が授けてくれた自分最もにあった職業、自分のために用意してくれた仕事、とでも解すればいいのでしょうか。不惑を越えた今、私の天職は金彩友禅ですと言えるようになりました。私は運命論者ではありませんが、一人の人間の生涯には、人知では測り知れない不思議な縁がついてまわる時があります。
それはむしろ出会いと言った方が適切かも知れません。
日々新たな出会いの連続の中で、一生を決定づける出会いは案外さり気なくやって来るようです。私と金彩友禅の出会いもそうでした。
もう三十年近くも前のことになりますが、中学校を卒業した私は、さる会社に就職も決まり、四月から出社を待つばかりでした。そんなある日、叔母の一人が、私を友禅の彩 色仕上げの工房へ連れて行ったのです。私の父も友禅の彩色職人でしたが、私が三歳の時に死んでおり、工房を見学するのは初めての経験でした。叔母にしてみれば、間もなく社会への第一歩を踏み出す私に、父親の仕事の一端を教えておきたかったのでしょうが、工房を見学させてもらううちに、身内に熱いものがこみ上げ、武者振るいにも似た感覚を持って、ほとんど即座に弟子入りを決心していたのです。父親がやっていた仕事だからという意識が潜在的に有ったのかもしれませんが、身体が熱くなったことを覚えています。
金彩友禅という名称が定着したのは、ここ十五年程のことです。私が入門した当時の金彩 加工は、現在とは比較にならないくらい冷遇されていました。
あしらい仕事、染難かくし、かさ出しの役として、誰にでも出来る簡単な仕事と見なされ、染色工程全般 の中で、従の立場に置かれておりました。随分くやしい思いもしましたが、そんな時脳裏に浮かんだのは、摺箔、押箔、振落とし金砂子などの技法が確立した桃山時代から江戸時代初期に制作された小袖や能装束など、金彩 技法を駆使して創作された過去の名品です。
過去にあんなに素晴らしい作品があったのだから、昭和の現代にあの名品をも凌駕した着物を創ってみたい、こんな思いが私を支え、研究と開発へ向かわせたのです。私は二十二歳で独立して工房を持ちましたが、それから十年は、寝食を忘れて金彩技術の改良に取り組みました。
当時金彩の最大の欠点は接着剤である糊にありました。湿気の多い時は箔のベタつき、変色、亀裂、剥離の原因となり、乾燥期には、箔が厚紙のように固くなって、金彩の評価を落としていたのです。私は染色試験場や大学の研究室の指導を得て、現代では金彩を施した部分は布地と同じ風合でやわらかく、ドライクリーニングにも耐え、後染め、色抜きしても金彩が剥がれない糊の開発に成功しました。ついで箔の開発です。
修業当時十色程しかなかった金彩箔を一色一色増やし、今では百五十色にも及んでいます。柔軟で強力な接着剤と数多い金彩箔、型紙の高度な技術の進歩など素材の開発によって、友禅染めにも負けない微妙な表現が可能となり、金彩だけの手描友禅が誕生しました。
金彩のみで制作された過去の名品に匹敵すると共に、友禅の工程である蒸しや水洗いにも耐える金彩をと、私は秘かな自負を込めて「金彩友禅」と命名し、現在では「光のオーケストラ・金彩友禅」と呼ばれるようになりました。
金彩友禅の作品を初めて発表したのは、昭和四十六年二月二十一日、京都市岡崎の勧業館で開催した「金銀の文様展」でした。文字通り生きるか死ぬかの大きな賭けでしたから、身体が震えたのを覚えています。この日が金彩友禅の実質的な誕生日であり、その後の創作活動の原点となりました。
ここ数年、私は海外(アメリカ・ドイツ・イタリア・南アフリカ共和国)に於いて、金彩友禅の着物とドレスの個展とショーを開催しました。きものが主でしたから、どのように受けとめられるのか想像もつかなかったのですが、どこの国でも表現こそ違え、「時代を超越した芸術」「技術と忍耐力のすばらしさ」「洗練されたに日本文化の精髄」などの賛辞には、金彩友禅の神秘な美の魅力と、金彩友禅を生んだ日本の伝統への理解が表れており、これには大きな驚きと共に、感激いたしました。
初心を忘れるべからず、夢忘れることなかれ。金彩友禅の地位向上をめざしてスタートした私ですが、金彩友禅の技法は着物や帯、ドレスは勿論、タペストリー、屏風などのインテリア、バッグなどの和洋小物、アクセサリーに至まで、その応用は可能です。伝統の技術により一層の創意工夫を加え、金彩友禅でないと出来ないのもづくりに挑戦することが今後の課題です。
更に金彩友禅の作品を通して、日本人の心に日本のびと伝統を秘めた精神文化を、そして日本に生まれ、日本人であることの喜びと埃を感じていただくことが、私の夢であります。また金彩友禅を世界の一人でも多くの人達に見ていただき、日本人の心、日本の伝統文化を世界に伝えていきたいと思います。
略年譜
昭和15年 5月 | 京都市に生まれる |
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昭和37年 1月 | 見習修業後、独立して工房を持つ |
昭和43年 4月 | 第十三回京都彩芸服飾工芸作品発表会に於て、帯、彩芸賞受賞 |
昭和45年10月 | 光映工芸株式会社設立 |
昭和46年 2月 | 第1回「金彩の文様研究発表展」開催 以後、毎年1~2回開催 |
昭和47年11月 | 第二十一回全国小紋友禅染色競技会に於て、訪問着、菊花賞受賞 |
昭和52年 9月 | 和田光正作品集『きもの百撰ー金彩友禅』発刊(フジアート出版刊) |
昭和53年 5月 | 京都金彩工芸協同組合副理事長に就任(S.53~H.4) 第三回全日本手描染色工芸展に於て、訪問着「嵯峨野」佳作受賞 |
昭和55年 4月 | 第十八回日本染織作品展に於て、訪問着「春閑」文部大臣奨励賞受賞 |
昭和55年 6月 | 第二十五回記念京都彩芸服飾作品発表会に於て、訪問着、京都商工会議所会頭賞受賞。 |
昭和55年 7月 | 第四回全日本手描染色工芸展に於て、訪問着、長野放送賞受賞 |
昭和55年 9月 | 第三回日本染織作家展に於て、訪問着、努力賞受賞 |
昭和56年 1月 | 『和田光正コレクション・錦光山文様撰集』発刊(フジアート出版刊) |
昭和56年 2月 | 読売テレビ系番組「ふるさとの匠たち」に、西日本九局ネットで紹介される |
昭和56年 3月 | 金彩工芸展十周年記念展に於て、訪問着「金彩 辻ヶ花」知事賞、留袖「道長」商工会議所会頭賞受賞 |
昭和56年 5月 | 社団法人日本染織作家協会正会員となる |
昭和56年10月 | 金彩工芸展に於て、知事賞(永年功労者表彰)受賞 |
昭和56年11月 | 日本テレビ・読売テレビ共同制作番組「美の世界ー金彩友禅」全国ネットで放映される |
昭和57年 2月 | 第四回亜細亜美術交友会展に於て、訪問着、努力賞受賞 |
昭和57年 3月 | 第九回金彩工芸展に於て、金彩優秀賞受賞 |
昭和57年 4月 | 日本テレビ系制作「ニ時のワイド・ショー」にてショーにて、金彩友禅ショー及び実演(技術)、全国ネットにて放映される アメリカ・ニューヨーク市、ジャパンハウス、国連ハマーショールドホールにて、ショー及び展覧会開催 |
昭和57年 5月 | 第二十七回京都彩芸服飾作品発表会に於て、訪問着、彩芸賞受賞 |
昭和57年10月 | イタリア・フィレンツエ市、国立美術館ストロッツイ宮殿及び、ドイツ・ミュンヘン市、市立レーへルセンター・国立民族博物館にてきものとドレスのショー及び展覧会を開催 |
昭和58年 1月 | 「横綱千代の富士関」の金彩友禅化粧廻し創作 |
昭和58年 3月 | 第十回金彩工芸展に於て、中振袖、金彩優秀賞受賞 |
昭和58年 4月 | 第二十一回日本染織作品展に於て訪問着「浄映」日経奨励賞受賞 |
昭和58年 9月 | 第六回日本染織作家展に於て、訪問着「蒼遥」努力賞受賞 |
昭和58年10月 | 「南アフリカ共和国・ヨハネスブルグ市・ダーバン市」にて展覧会(以後2ケ月間)開催 東京セントラル美術館にて〈金彩友禅・和田光正の世界〉展開催 |
昭和58年 11月 | 国立京都国際会館にて〈金彩友禅・和田光正の世界〉展開催 |
昭和59年 2月 | 『金彩友禅・和田光正の世界』発刊(フジアート出版刊) |
昭和59年 3月 | 第十一回金彩工芸展に於て、金彩優秀賞受賞 |
昭和59年 4月 | 第二十二回日本染織作品展に於て訪問着「蒼律」日経技能賞受賞 |
昭和59年 5月 | 第二十九回京都彩芸服飾作品発表会に於て、訪問着、彩芸賞受賞 |
昭和59年 9月 | 第二十二回全国繊維試験場(所)試作及び協力作品展に於て、訪問着、中小企業庁長官賞受賞 |
昭和59年12月 | ドイツ・ブレーメン市、海外博物館、オルデンブルグ市、市立美術館及びフランス・ナント市、市立グランドセンターにてショー及び展覧会開催 |
昭和60年 4月 | 第二十三回日本染織作品展に於て訪問着「春律」日経奨励賞受賞 |
昭和60年 5月 | アメリカ・シアトル市にてショー及び展覧会開催 |
昭和60年 6月 | ドイツ・オルデンブルグ市より栄誉賞受賞 |
昭和60年 7月 | 伝統産業技術後継者指導育成、京都市長より感謝状授与 |
昭和60年10月 | カナダ・アルバータ州芸術家協会主催『芸術交流美術展』に招待出展。(カルガリー、メディシンハット他五ケ所各美術館にて、以後八ヶ月間開催) |
昭和60年12月 | 伝統工芸士に認定される(通商産業省・伝統的工芸品産業振興会) |
昭和61年 3月 | 第十三回金彩工芸展に於て、金彩優秀賞受賞 |
昭和61年 4月 | 第二十四回日本染織作品展に於て、日経技能賞受賞 |
昭和62年 3月 | 第十四回金彩工芸展に於て、金彩優秀賞受賞 |
昭和62年 4月 | 第二十五回日本染織作品展に於て訪問着「風動」日経技能賞受賞 |
昭和62年 8月 | 『横綱 北勝海関』の金彩友禅化粧廻し創作 |
平成元年 3月 | 京都府主催、新和風試作開発グループ『和座百衆』会長に就任 |
平成元年 4月 | 第二十七回日本染織作品展に於て訪問着「飛翔」日経賞佳作受賞 |
平成元年 9月 | アメリカCBSテレビ『Two on the town』にて金彩友禅の技法・作品が放映される |
平成元年 10月 | デザイナーコシノ・ジュンコのパリコレクション及び、東京コレクションの作品に協力する 京都文化博物館にて個展開催 |
平成2年 3月 | 『横綱千代の富士関・北勝海関』両横綱の金彩友禅化粧廻し創作 |
平成3年 3月 | Made in KY0T0ベストデザイン賞コンクール(京都府主催)に於て、「金彩友禅 カガミ屏風」ユーザー選賞受賞 |
平成4年 4月 | 第三十回日本染織作品展に於て、訪問着「誘想」日経奨励賞受賞 |
平成4年 5月 | 京都金彩工芸協同組合理事長に就任(H.4~H.10) |
平成4年 7月 | 結婚式場(ベルセゾン)の舞台に金彩友禅壁面 を創作 京都染色協同組合連合会伝統工芸士会 会長及び、京都伝統工芸士会連合会会長に就任 |
平成5年 4月 | 新技法「光正高蒔絵」発表 |
平成5年 6月 | イタリアデザイナーとのファッション交流イベント「Fashion Cantata from KYOTO」(於、国立京都国際会館)に出展 |
平成6年 7月 | 新技法『伊呂金彩』・『詩線金彩』・『煌流金彩』発表 |
平成7年 2月 | 『横綱貴乃花関』の金彩友禅化粧廻し創作 |
平成7年 3月 | 京都文化博物館にて『職人四十年研究発表会』開催 |
平成7年 4月 | 『小結 浪乃花関』の金彩友禅化粧廻し創作 |
平成7年6~8月 | 『十両 千代大海関』の金彩友禅化粧廻し創作(4点) |
平成8年 5月 | 『十両 千代の若関』の金彩友禅化粧廻し創作(2点) |
平成8年 9月 | 新技法『光正高蒔絵』特許認可され |
平成8年 10月 | 「金彩友禅 天路の歌~職人40年・和田光正の世界」出版 |
平成9年 1月 | 『十両 千代天山関』の金彩友禅化粧廻しを創作 |
平成9年 11月 | 京都手描友禅染工業協同組合連合会設立 副理事長に就任 |
平成10年 5月 | 京都金彩工芸協同組合顧問に就任 京都手描友禅染工業協同組合連合会相談役に就任 |
平成10年 8月 | 豊臣秀吉公 四百年祭にて金彩友禅着物 参領 奉納(於・鷲峰山 高臺聖寿禅寺) |
平成11年 3月 | 『大関 千代大海関』の金彩友禅化粧廻し創作 |
平成11年 9月 | 新ブランド「夢蒔絵」発表 |
平成11年11月 | 『大関 出島関』の金彩友禅化粧廻し創作 |
平成12年 5月 | 金彩友禅摺箔技法(能衣夢摺箔)にて、第26世能楽金剛流宗家・金剛永謹氏に雌雄の鳳凰を描いた能装束「長絹」・「中着」・「下着」を創作 |
平成13年11月 | 京都府伝統産業優秀技術者『京の名工』として表彰される |
平成14年 4月 | 大蔵流 茂山家に本金箔を使用した金彩友禅摺箔技法と光正高蒔絵技法により玩具尽しの柄を描いた狂言衣装を創作 |
平成14年 6月 | 京都染色協同組合連合会伝統工芸士会創立20周年にあたり、長年の産地振興事業遂行の功績に対して、(財)伝統的工芸品産業振興協会より表彰される |
平成15年 9月 | 新ブランド「光阿弥」発表 |
平成15年10月 | 京都手描友禅協同組合設立 顧問に就任 |
平成15年11月 | 卓越技能者『現代の名工』(厚生労働大臣表彰)として表彰される |
平成16年 2月 | 第10回記念京都手描友禅作品展に於いて、京都市長賞受賞 |
平成17年 3月 | 京都きものコレクション(2004 きものファッションショー&展覧会)に出展 |
平成17年 9月 | 新作品『金彩琳派』発表 |
平成18年 4月 | 新技法『究極の金彩~高蒔絵の極み~』『黄金千年箔~二十四金の輝き~』『白金千年箔~プラチナの煌き~』発表 |
平成18年 7月 | 京友禅協同組合連合会伝統工芸士会 顧問に就任 |
平成18年10月 | (財)伝統的工芸品産業振興協会及び伝統的工芸品月間推進近畿協議会主催『2006 近畿・中国・四国伝統的工芸品フェア特別企画展』に於いて京都市長より優秀表彰 |
平成18年11月 | 『金彩友禅 夏物の世界展』開催 |
平成19年 1月 | 新技法『斑鳩(いかるが)金彩』発表 |
平成19年 3月 | 外務省の要請によりポーランド国立ウッジ考古学民族学博物館に於いて開催された『日本芸術祭・ポーランド展』(H18.10~H19.3)に金彩友禅きものを出展 |
平成19年12月 | 新技法『焼箔(やきはく)金彩』発表 |
平成20年 4月 | タイ王国ワチラロンコン皇太子の次女、シリワンナワリー・ナリラタナ王女が日本の伝統文化に触れる為、プライベートで金彩友禅 和田光正工房を訪問 |
平成21年 1月 | 新作品『光正高蒔絵(みつまさたかまきえ)小紋』発表 |
平成21年 3月 | 第14回京手描友禅作品展に於いて、近畿経済産業局局長賞受賞 第2回京都文化ベンチャーコンペティッションに於いて金彩バックの卓越した発想・新規性に対し、京都中央信用金庫賞受賞 |
平成21年 4月 | 第32回日本染織作家展に於いて、訪問着「斜月幻光」京都新聞社賞受賞 |
平成22年 3月 | 第15回京手描友禅作品展に於いて、(財)伝統的工芸品産業振興協会賞受賞 |
平成22年 5月 | 『金彩友禅 和田光正の世界III・「輝跡(きせき)」』発刊 |
平成24年11月 | 秋の叙勲に際し、瑞宝単光章受章 |
コレクション
『道中羽織』
『陣羽織』
『道中羽織』
古代衣装~江戸後期~『露芝と秋草御所車模様繍入り摺箔』
古代衣装~江戸中期~『破れ籠目模様摺箔』
古代衣装~江戸時代~『青海波文様摺箔』
菓子箪笥~光悦作~『水葵、杜若、 澤瀉蒔繪』
菓子箪笥引出し~光悦作~『水葵、杜若、澤瀉蒔繪』
高蒔絵文箱~江戸時代~